要件定義の具体例|備品の貸出管理システムで業務要件から非機能要件まで

備品の貸出管理を題材に要件定義の例を紹介する記事のアイキャッチ

当サイトの記事は編集部がIPAなど公的機関の公開資料と読者の声を調べて独自に執筆しています。

要件定義の説明を読んでも、実際にどんな文が並ぶのかがイメージしにくい、という方は多いですよね。

結論から言うと、要件定義の例は、一つの題材で業務要件から非機能要件まで通して見るのがいちばん分かりやすいです。

この記事では、架空の「備品の貸出管理システム」を題材に、要件定義の具体例を最初から最後までつなげて紹介します。

目次

要件定義の例を見る前に、題材をそろえておきましょう

先に結論

要件定義は「業務をどう変えるか」から始まり、「システムが何をするか」「どのくらいの品質で動くか」へと細かくなっていきます。
一つの題材で通して見ると、この流れがつかみやすくなります。

要件定義(RD:Requirements Definition)は、システムで何を実現するかを、発注側と開発側で決めて合意する工程です。

『定義の説明は分かったけれど、結局何を書けばいいの?』という声がとても多いんです。

そこでこの記事では、編集部が架空の題材を一つ決めて、要件を順番に書いてみました。

題材は「社内の備品の貸出管理」です

ここで使う題材は、すべて架空の設定です。

実在の会社の事例ではないので、自分の案件に置き換えながら読んでみてください。

項目設定(架空)
対象の業務ノートPC、プロジェクター、タブレットなど、社内の共用備品の貸し出し
今のやり方総務部が紙の台帳で管理し、社員は総務部の窓口で借りる
困りごとどの備品が空いているか分からず、返却の遅れにも気づきにくい
使う人社員、総務部の担当者、情報システム部門
今回やらないこと備品の購入の手続き、社外への貸し出し

例の全体の流れ

この記事で書いていく順番
  1. 背景・目的と対象範囲を決める
  2. 今の業務と目指す業務を比べ、業務要件を書く
  3. 業務要件から、システムの機能要件を書く
  4. 非機能要件を書く
  5. 一つの機能を取り出して、ソフトウェア要件定義の例に落とす
  6. 移行、運用、未決事項を書く

例を読む前に知っておきたい言葉

例の中に出てくる言葉を、先にそろえておきます。

言葉この記事での意味
業務要件業務をどう変えるか。誰が、いつ、何を、どの基準で行うか
機能要件システムが何をするか。画面、データ、処理、連携
非機能要件どのくらいの品質で動くか。性能、可用性、セキュリティなど
システム要件定義システム全体として持つべき機能や性能を決めること
ソフトウェア要件定義ソフトウェアごとの振る舞いに細かくすること

言葉の意味を押さえておくと、どの例がどの段階のものか迷わずに読めます。

要件定義そのものの意味から確かめたい方は、要件定義とはを先に読んでおくとスムーズです。

業務要件の例:今の業務と目指す業務を比べる

ここが大事なところです

業務要件は、システムの話をする前に「業務をどう変えるか」を書く部分です。
誰が、いつ、何を、どの基準で行うのかを、主語のある短い文で書きます。

最初に、背景・目的と対象範囲を短く書いておきます。

  • 背景:共用備品の貸し出しを紙の台帳で管理しており、空き状況の確認や返却の催促に手間がかかっている。
  • 目的:社員が自分で空き状況を確かめて予約できるようにし、総務部が返却の遅れにすぐ気づけるようにする。
  • 対象範囲:本社の共用備品の予約、貸し出し、返却、返却の催促。備品の購入と社外への貸し出しは対象外。

今(As-Is)と目指す姿(To-Be)を比べる

As-Is/To-Be分析は、今の業務と目指す業務を比べて、差から必要な対応を見つける方法です。

場面ごとに並べてみると、変えたいところがはっきりしますよね。

場面今(As-Is)目指す姿(To-Be)
空きの確認総務部の窓口に聞きに行く社員が画面で空き状況を見る
予約予約の仕組みが無く、当日に窓口で借りる社員が利用日を指定して予約する
貸し出し総務部が台帳に手で書く総務部が画面で貸し出しを記録する
返却総務部が台帳に返却日を書く総務部が画面で返却を記録する
返却の遅れ台帳を見返さないと気づけない返却予定日を過ぎたら、借りた人に知らせが届く

業務要件の一覧(例)

番号誰がいつ何を基準
業務1社員使う日の前日まで備品を予約する同じ備品を同じ日に重ねて予約できない
業務2総務部貸し出す時貸し出しを記録する予約した本人であることを確かめる
業務3社員返却予定日まで備品を返す総務部の窓口に返す
業務4総務部返す時返却を記録し、破損がないか見る破損があれば記録を残す
業務5総務部毎朝返却の遅れを確かめる返却予定日を過ぎたものを確かめる

予約から返却までの流れを文章にした例

備品の貸出業務の流れ(To-Be・例)
  1. 社員が空き状況の画面で備品と利用日を選び、予約する
  2. 利用日に、社員が総務部の窓口へ行く
  3. 総務部が予約を確かめ、貸し出しを記録して備品を渡す
  4. 社員が返却予定日までに備品を窓口へ返す
  5. 総務部が破損の有無を見て、返却を記録する
  6. 返却予定日を過ぎたものは、借りた人に知らせが届く

流れを書く時は、例外の場面も忘れずに足しておきましょう。

例えば「予約した人が来なかった時」「返した備品が壊れていた時」は、誰がどう動くのかを決めておく必要があります。

業務フロー図にする時は、社員、総務部、システムの三つのレーンに分けて、予約から返却までを順に並べると見やすくなります。

例えばこんな場面を想像してみてください。

「プロジェクター、明日の午後に借りたいんですが空いていますか?」
「確認しますね。あ、明日の午後は別の部署の予約が入っているんです」

このやり取りを社員が画面で済ませられるようにする、というのが今回の業務要件の中心です。

備品の貸出管理を題材に、業務要件から機能要件、非機能要件、ソフトウェア要件へと要件定義が細かくなっていく流れを示した図解

システム要件定義の例:機能要件を書く

書き方の要点

機能要件は、業務要件の一つひとつから「システムが何をするか」を書き出します。
番号を振り、どの業務要件から来たかを書いておくと、後からたどれます。

ここからが、システム要件定義の例です。

業務の言葉で書いた要件を、システムの機能の言葉に置き換えていきます。

機能一覧の例

番号機能内容元の業務要件
機能1空き状況の表示備品の種類と日付を選ぶと、空いている備品を表示する業務1
機能2予約の登録空いている備品と利用日を選んで予約する業務1
機能3重なりの防止すでに予約がある備品と日付では予約できない業務1
機能4貸し出しの記録総務部が予約を選び、貸し出し済みにする業務2
機能5返却の記録総務部が返却済みにし、破損の有無を記録する業務4
機能6返却の催促返却予定日を過ぎた貸し出しについて、借りた人にメールで知らせる業務5
機能7備品の登録総務部が備品を追加、変更、廃棄済みにする運用・保守要件

画面とデータの例

機能が決まったら、画面の一覧と、扱うデータの項目も書き出しておきます。

画面使う人できること
空き状況の画面社員空いている備品を探して予約する
自分の予約の画面社員予約を確かめ、取り消す
貸出管理の画面総務部貸し出しと返却を記録する
備品の管理画面総務部備品の追加や変更をする
データ主な項目
備品備品の番号、種類、名前、置き場所、状態
予約予約の番号、備品の番号、社員、利用日、返却予定日
貸出予約の番号、貸し出した日、返した日、破損の有無

『データの項目まで要件定義で決めるの?』と思うかもしれませんね。

要件定義では、業務で使う項目が揃っているかを確かめる程度で大丈夫です。

項目の細かい形や桁は、設計の工程で決めていきます。

補足

データの項目は、今使っている紙の台帳の欄から書き出すと漏れにくくなります。
台帳にあるのに誰も使っていない欄は、残すかどうかを総務部と確かめておきましょう。

帳票の例

帳票使う人中身
月ごとの貸出実績総務部備品ごとの貸し出し回数と、返却の遅れの件数
貸出中の一覧総務部今貸し出している備品と、借りた人、返却予定日

帳票は、誰が何のために見るのかを書いておくと、必要な項目の過不足に気づけます。

システム要件定義でどこまで決めるかは、システム要件定義とはでも詳しく説明しています。

非機能要件の例:どのくらいの品質で動かすか

書き方の要点

非機能要件は、IPAの「非機能要求グレード」の6つの大項目を見出しにすると、書き漏れが減ります。

非機能要件は、システムが「どのくらいの品質で動くか」を決める部分です。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の非機能要求グレードでは、非機能要件を6つの大項目に分けています。

大項目は可用性、性能・拡張性、運用・保守性、移行性、セキュリティ、システム環境・エコロジーで、それぞれ0〜5の段階からレベルを選びます。

備品の貸出管理の例で書くと、こうなります。

大項目記入例(架空)確かめ方の例
可用性平日の業務時間中は使えること止めてよい時間帯を運用・保守要件で決める
性能・拡張性朝の始業時に予約が集中しても操作できること目標の値は、利用者の数を見て基本設計の前に決める
運用・保守性備品の追加や変更を総務部が画面から行えること総務部の担当者が操作して確かめる
移行性紙の台帳の貸出中のデータを登録し直せること移行の手順を予行して確かめる
セキュリティ社員の認証を通った人だけが使えること認証していない状態で使えないことを確かめる
システム環境・エコロジー社内のネットワーク内で動くこと社外からつながらないことを確かめる

この例では、あえて数字を書いていません。

実は、目標の数字は現状を確かめてから発注側と開発側で話し合って決めるのが基本なんです。

話し合いの場面の例

非機能要件は、発注側と開発側の会話で決まっていくことが多いです。

例えば、こんなやり取りがよくあります。

「夜間や休日も使えるようにしたほうがいいですか?」
「貸し出しは平日の窓口だけなので、業務時間中に使えれば十分です」

この一言で、可用性の要件が「平日の業務時間中」に決まり、作るものの重さも変わってきます。

良い非機能要件と、困る非機能要件

困る書き方どこが困るか直した例
安定して動くこと何をもって安定とするか分からない平日の業務時間中は使えること。止めてよい時間帯は運用・保守要件で決める
セキュリティに配慮すること何を守るのか分からない社員の認証を通った人だけが使え、総務部だけが備品の管理画面を使えること
速く動くこと合格の基準が無い空き状況の画面の応答時間の目標を、基本設計の前に決める

要求工学の国際規格 ISO/IEC/IEEE 29148 でも、良い要件の性質として「あいまいでない」「検証できる」が挙げられています。

『全部の項目に答えを出すのは無理かも』と感じたら、関係しそうな項目から話し合ってみてください。

ソフトウェア要件定義の例と、移行・運用・未決事項

書き方の要点

ソフトウェア要件定義では、一つの機能を取り出して、入力、処理、出力、例外に分けて書きます。

最後に、一つの機能を取り出して、ソフトウェア要件定義の例に落としてみます。

IPAの「共通フレーム2013」という工程の物差しでは、要件定義プロセスのあとに、システム要件定義、ソフトウェア要件定義と続きます。

システム全体の要件を、ソフトウェアごとの振る舞いに細かくしていく工程です。

「返却の催促」機能を細かくした例

区分記入例(架空)
きっかけ毎朝の決まった時刻に動く
入力貸出のデータのうち、まだ返却されていないもの
処理返却予定日を過ぎた貸し出しを探す
出力借りた人に、備品の名前と返却予定日を書いたメールを送る
例外借りた人が退職などで見つからない時は、総務部に知らせる
記録いつ、誰に知らせたかを残す
ソフトウェア要件定義の例として、返却の催促機能をきっかけ、入力、処理、出力、例外、記録に分けた図解

こうして分けておくと、開発チームは設計に進みやすく、テスト担当も確かめる観点を作りやすくなりますよ。

移行要件・運用要件・未決事項の例

  • 移行要件:稼働日の時点で貸出中の備品は、総務部が紙の台帳からシステムに登録し直す。登録が終わったら紙の台帳での受付を止める。
  • 運用・保守要件:操作の問い合わせは総務部が受け付け、不具合は情報システム部門が開発側に連絡する。
  • 制約条件:社内の情報セキュリティの規程に従う。
番号決まっていないこと担当期限の目安
未決1何日先まで予約できるようにするか総務部基本設計に入る前まで
未決2破損した時の連絡の流れ総務部と情報システム部門次回の会議まで
よくある失敗

未決事項を書かずに承認してしまうケースです。
後で「決まっていたはず」と受け取り方がずれる原因になるので、決まっていないことほど一覧に残しておきましょう。

通しで見たときのチェック

例を自分の案件に置き換える時のチェック
  • 背景・目的から、業務要件、機能要件までがつながっているか
  • 機能要件に、元になった業務要件の番号を書いたか
  • 非機能要件に、確かめ方を書いたか
  • 主要な機能について、入力、処理、出力、例外を書いたか
  • 未決事項に、担当と期限を書いたか

章立てをテンプレートの形で見たい方は、要件定義書の例・テンプレートも役立ちます。

要件定義ガイド

まずは型をそろえよう|要件定義書のテンプレートと記入例

章立て・各章に書くこと・1行の記入例をひとつの表にまとめました。白紙から書き始める前に、型を手元に置いておきましょう。

無料要件定義書のテンプレートを見る

当サイトの記事ページに移動します。

よくある相談に答えます

要件定義の例について、よく寄せられる相談を要約してお答えします。

相談1:「要件定義セッション」の「セッション」って何?

資料に「要件定義セッションを密度の濃い内容とする」と書かれていて、セッションが何を指すのか分からない、という相談です。

ここでのセッションは、要件を決めるために関係者が集まって話し合う場、つまり打ち合わせや検討会のことです。

この記事の例で言えば、総務部と開発チームが集まって業務要件や機能一覧を確かめる会議がそれにあたります。

会議の名前で呼ぶか、セッションと呼ぶかは会社ごとの習慣の違いで、中身はほとんど同じだと考えてかまいません。

「密度の濃い内容にする」は、事前に資料を配って論点を絞り、その場で決めることを増やす、という意味で使われることが多いです。

相談2:システム要件が技術的に難しすぎると分かったら、どうする?

システム要件定義の途中で、要件の実現が技術的に難しいという課題が出てきた時の対応を知りたい、という相談です。

結論から言うと、要件を隠したり無理に通したりせず、発注側と開発側で目的に立ち返って話し合うのが基本です。

「その要件で実現したい目的は何か」を確かめると、別の方法で目的を満たせる場合があります。

決めきれない時は未決事項に載せ、誰がいつまでに判断するかを書いておきましょう。

相談3:システム要件定義とソフトウェア要件定義の違いが分からない

試験勉強をしていて、開発の工程に出てくる「システム要件定義」と「ソフトウェア要件定義」などの違いがつかめない、という相談です。

この記事の例で言うと、機能一覧や非機能要件を書いたところがシステム要件定義です。

そこから「返却の催促」機能を取り出して、入力、処理、出力、例外に細かくしたところがソフトウェア要件定義の例にあたります。

システム全体から、ソフトウェアごとへと細かくしていく順番だと覚えておくと分かりやすいですよ。

よくある質問

要件定義の例は、どんな題材で考えると分かりやすいですか?

身近で、関わる人が少ない業務がおすすめです。備品の貸し出しや会議室の予約のように、流れが短い題材だと、業務要件から非機能要件まで通して書きやすくなります。

システム要件定義の例で、いちばん大事なのはどこですか?

機能一覧と、元になった業務要件とのつながりです。番号でつなげておくと、なぜその機能が必要なのかを後から説明できます。

ソフトウェア要件定義の例は、どこまで細かく書けばいいですか?

主要な機能について、きっかけ、入力、処理、出力、例外が分かる程度が目安です。画面の配置やプログラムの中身は、設計の工程で決めていきます。

小さなシステムでも、非機能要件まで書く必要がありますか?

書いておくのがおすすめです。この記事の例のように、使える時間帯や使える人の範囲を一行ずつ書くだけでも、作るものの重さや運用の負担を事前にそろえられます。

要件定義の具体例を、自分の仕事にどう生かせばいいですか?

題材の部分を自分の案件に置き換えて、同じ順番で書いてみてください。書き終えたら、背景・目的から機能までがつながっているかを確かめると、抜けに気づきやすくなります。

まとめ

この記事の要点
  • 要件定義の例は、一つの題材で通して見るとつながりが分かる
  • 業務要件は、今と目指す姿を比べて、誰が、いつ、何を、どの基準でを書く
  • システム要件定義の機能要件は、番号を振って元の業務要件とつなげる
  • 非機能要件は6つの大項目を見出しにし、確かめ方まで書く
  • ソフトウェア要件定義の例は、一つの機能を入力、処理、出力、例外に分けて書く

例を参考に自分でも書いてみたい方は、要件定義書の書き方で手順とNG文の直し方を確かめてみてください。

要件定義ガイド

要件定義ガイド 編集部

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