システムリプレースの要件定義とは?現行調査と移行の決め方

システムリプレースの要件定義を表す、現行システムの書類と付箋のアイキャッチ

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古くなったシステムの入れ替えを任されて、『今と同じものを作ればいいだけでは?』と思っていませんか。

結論から言うと、システムリプレースの要件定義で一番大事なのは、「今あるものをそのまま」に頼らず、今のシステムを調べ直して要る・要らないを決めることです。

この記事では、現行調査のチェックリストと、システム移行・データ移行の要件定義で決めることを、記入例つきで見ていきます。

目次

システムリプレースの要件定義とは?新しく作る時と違うところ

先に結論

リプレースの要件定義では、新しいシステムの要件に加えて「今のシステムをどう調べるか」「どう移るか」を決めます。今のシステムがあるぶん楽そうに見えますが、実は決めることは新しく作る時より多くなりがちです。

リプレースとは、今使っているシステムを新しいシステムに入れ替えることです。

保守の期限が近づいた、使い勝手が業務に合わなくなった、作った人がいなくて直せない、などがきっかけになりますよね。

リプレースでも、要件定義(RD:Requirements Definition)で決めることの基本は変わりません。

ただ、今のシステムがあるぶん、新しく作る時にはない作業が加わるんです。

比べる点新しく作る場合リプレースの場合
要件の出発点業務の困りごとと目的今のシステムの機能と、今の困りごと
調べるもの今の業務の流れ今の業務の流れと、今のシステムの中身
移行少なめで済むことが多いデータ移行と切替が大きな比重を占める
よくある落とし穴要件がふくらみ続ける「今と同じ」で調べたつもりになる

要件定義の基本から確かめたい方は、要件定義とは?意味をわかりやすく解説を先に読んでみてください。

「今と同じでいい」が危ない理由

リプレースの会議で、「機能は今と同じでいいので」と言われること、よくありますよね。

一見わかりやすい要件ですが、この一言にはいくつかの問題が隠れています。

よくある失敗

「今と同じ」を要件にしてしまう。今のシステムで何ができているかを誰も正確に知らないまま進み、テストの段階で「前はできた」「その機能は知らなかった」が次々に出てきます。今と同じかどうかを確かめる物差しが、どこにもないからです。

さらに、今の機能の中には、もう誰も使っていないものや、業務に合わなくなったものも混ざっています。

それをそのまま新しいシステムに持っていくと、費用をかけて要らない機能を作り直すことにもなりかねません。

「今ある機能をそのまま」に頼らない、現行調査のチェックリスト

ここが大事なところです

現行調査では、今のシステムの機能だけでなく、誰がどう使っているか、どこにつながっているか、表に出ていない処理はないかまで調べます。チェックリストで抜けを防ぎましょう。

現行調査とは、今のシステムが何をしていて、誰がどう使っているかを調べる作業です。

リプレースの要件定義は、この現行調査の深さで出来が大きく変わります。

現行調査のチェックリスト
  • 画面と帳票を一覧にし、それぞれ誰がいつ使っているかを確かめる
  • 夜間や月末に自動で動いている処理を洗い出す
  • つながっている他のシステムや社外とのやり取りを一覧にする
  • 利用部門が表計算ソフトなどで補っている作業を聞き出す
  • 使われていない機能や、使い方が変わった機能を確かめる
  • 今のシステムへの不満と、直してほしい点を集める
  • 保存しているデータの種類と、残しておく期間の決まりを確かめる
  • 今の性能や止まった時の記録など、品質の実績を集める
リプレースの現行調査で確かめる項目を並べたチェックリストの図解

特に見落としやすいのが、夜間や月末に自動で動いている処理と、利用部門がシステムの外で補っている作業です。

どちらも画面には出てこないので、画面を一つずつ見ていくだけでは見つかりません。

表に出ていない処理を見つける聞き方

『画面を全部見たから大丈夫』と思っていても、抜けていることがあります。

利用部門には、画面の使い方ではなく、業務の流れに沿って聞いてみるのがおすすめです。

「月末の締めの日は、システムを使ってどんな作業をしていますか?」と開発側が聞きます。

「締めの翌朝に、システムから届く一覧を表計算ソフトに貼って、部長に送っています」と利用部門が答えます。

この答えから、「締めの夜に自動で一覧を作る処理」と「表計算ソフトで補っている作業」の2つが見えてきます。

設計書が古い、または無い時の調べ方

長く使ってきたシステムほど、設計書が今の中身と合っていないことがよくあります。

設計書が無い、あっても古いという場合は、次の順で調べていくと進めやすくなります。

設計書に頼れない時の現行調査の手順(例)
  1. 利用部門に業務の流れを聞き、使っている画面と帳票を書き出す
  2. 実際の画面を操作しながら、入力と出力を記録する
  3. 自動で動いている処理の一覧と、動く時間を運用の担当者に確かめる
  4. 保存しているデータの項目と件数を確かめる
  5. 分からない機能は「調査中」として課題一覧に残す

全部を調べきれない時は、業務への影響が大きいところから順番に調べましょう。

機能だけでなく、品質の実績も調べておく

現行調査というと機能に目が行きがちですが、今のシステムがどのくらいの品質で動いているかも大事な材料です。

リプレースの後に「前より遅くなった」と言われるのは、今の速さを誰も測っていなかった時によく起きますよね。

調べる品質の実績調べ方の例新しいシステムの要件への生かし方(例)
混み合う時間帯の速さ利用部門に聞き、記録があれば確かめる今より遅くならないことを要件にする
止まった回数と原因運用の担当者の記録を見る同じ原因で止まらない条件を足す
データの増え方年ごとの件数を比べる何年先まで使うかを決めて、増え方に備える
使っている人の数と場所利用者の一覧を確かめる使う場所が増えていれば、使い方の条件を見直す

今の数字がそろっていれば、新しいシステムの非機能要件を、根拠を持って決められます。

今の業務と目指す業務を比べる方法は、要件定義の業務分析(As-Is/To-Be)で詳しく解説しています。

機能ごとに「残す・やめる・変える」を決める

先に結論

現行調査で集めた機能は、一つずつ「残す・やめる・変える」に分けます。この棚卸しの表が、リプレースの要件定義の中心になります。

現行調査が終わったら、集めた機能を一つずつ判断していきます。

ここでは架空の題材として、「顧客ごとの契約と保守の期限を管理している社内の契約管理システムを入れ替える場合」で書いてみます。

今の機能(契約管理・例)使っている人と頻度(例)判断(例)理由(例)
契約の登録と検索営業部門が毎日使う残す業務の中心で、使う頻度が高い
期限が近い契約の一覧の出力営業部門が月初に使う変える一覧を出すのではなく、担当者に知らせる形にしたい
古い形式の契約書の印刷ここ数年使われていないやめる今は契約書を別の方法で作っている
月末の売上見込みの集計管理部門が表計算ソフトで補って使う変える補っている作業ごとシステムに取り込む
請求の仕組みへのデータの受け渡し夜間に自動で動く残す請求の業務が止まってしまう

「やめる」と判断した機能は、その理由と、判断した人も書き残しておきましょう。

後から「あの機能はどこへいったの?」と聞かれた時に、すぐに答えられます。

判断に迷う機能はどう扱う?

『使っている人が少ないけれど、無くすと困る人がいるかも…』と迷う機能もありますよね。

迷う機能は、その場で決めずに、使っている人に直接聞いてから決めるのがおすすめです。

迷うケース(例)決め方の目安(例)
使う人は少ないが、法令や社内の決まりで要る残す。決まりの名前と担当部署を書き残す
年に一度しか使わないが、無いと手作業が大きい残すか、手作業の手順を決めてやめるかを比べる
誰が使っているか分からない利用の記録を確かめ、分からなければ課題一覧に残す
補足

「変える」と判断した機能は、新しく作る時と同じように、目的と業務の流れから要件を書きます。今の機能の画面をそのまま写さないようにしましょう。

移行要件定義:システム移行とデータ移行で決めること

ここが大事なところです

移行の要件定義では、どのデータを、どの形に変えて、いつ、どうやって移すかを決めます。リプレースの手戻りが一番大きくなりやすいのがここです。

システム移行の要件定義は、今のシステムから新しいシステムへ、業務とデータを移すための条件を決めることです。

その中でも、データ移行の要件定義は特に細かく決める必要があります。

決める項目中身記入例(契約管理・例)
移すデータの範囲どのデータを、いつの分まで移すか有効な契約は全件、終わった契約は決まった期間の分だけ
件数の把握移すデータがどのくらいあるか移行の前に、データの種類ごとに件数を数える
変換のルール今の形を新しい形にどう直すか顧客の名前の表記の揺れを、決めたルールでそろえる
移さないデータの扱い移さないデータをどう残すか終わった古い契約は、閲覧用に別の場所へ残す
移行のテスト本番の前にどう試すか本番と同じ件数で試し、移した後の件数と中身を照らし合わせる
切替日と段取りいつ、どの順番で切り替えるか月末の締めが終わった後の休日に切り替える
データ移行の要件定義で決める項目を、移すデータの範囲から切替日まで順に並べた図解

『データは機械的に移せるのでは?』と思う方も多いはずです。

ただ、長く使ってきたシステムのデータには、表記の揺れや、入力の決まりが途中で変わった跡が残っています。変換のルールを決めずに移すと、新しいシステムで検索できないデータが出てきてしまいます。

移行の要件定義の進め方

移行の要件定義の進め方(例)
  1. 現行調査で集めたデータの一覧から、移すデータと移さないデータを分ける
  2. データの種類ごとに件数を数え、表記の揺れや欠けを確かめる
  3. 変換のルールを決め、利用部門に確認してもらう
  4. 移行のテストの回数と、確かめ方を決める
  5. 切替日と、切替の当日の段取りを決める
  6. うまくいかなかった時に、今のシステムに戻す条件を決める

6番目の「戻す条件」は、つい後回しにされがちです。

切替の当日に問題が出た時、その場で判断するのは難しいので、要件定義の段階で決めておきましょう。

移行の作業は、誰が何を受け持つ?

データ移行では、発注側と開発側の受け持ちがあいまいになりやすいです。

『データを移すのは開発側の仕事でしょう?』と思われがちですが、データの中身を判断できるのは発注側なんです。

作業(例)主に受け持つ側(例)
移すデータと移さないデータを決める発注側(利用部門)
表記の揺れをどうそろえるか決める発注側(利用部門)
変換の仕組みを作り、移行のテストをする開発側
移した後のデータが正しいかを確かめる発注側と開発側
切替の当日に業務を止める連絡をする発注側(情報システム部門)

受け持ちは会社や契約の形で変わりますが、要件定義の段階で表にして合意しておくと、切替の直前に慌てずに済みます。

切替の時期は、業務の都合から決める

切替日は、システムの都合だけでなく、業務の都合から決めることが大事です。

例えば、締めの処理の途中で切り替えると、今のシステムと新しいシステムにデータが分かれてしまいますよね。

締めが終わった直後や、業務が少ない時期など、利用部門と相談して決めてみてください。

インフラ側の移行の条件は、インフラエンジニアの要件定義で扱っています。

要件定義ガイド

まずは型をそろえよう|要件定義書のテンプレートと記入例

章立て・各章に書くこと・1行の記入例をひとつの表にまとめました。白紙から書き始める前に、型を手元に置いておきましょう。

無料要件定義書のテンプレートを見る

当サイトの記事ページに移動します。

システム改修とリプレース、どちらで進める?

先に結論

直したいところが一部で、今のシステムの土台がまだ使えるなら改修、土台ごと業務に合わなくなっているならリプレースが向いています。どちらにするかも、要件定義の前に決めておきたい判断です。

システム改修の要件定義と、リプレースの要件定義は、進め方が少し違います。

改修は、今のシステムを生かしたまま、一部の機能を直したり足したりすることです。

改修で進める場合
  • 直す機能の範囲だけ要件を決めればよい
  • データ移行はほとんど要らない
  • 直す部分が他の機能に与える影響を調べる
リプレースで進める場合
  • 機能全体を棚卸しして要件を決め直す
  • データ移行と切替の要件が要る
  • 業務のやり方ごと見直せる

改修の要件定義で特に大事なのは、直す部分がつながっている他の機能への影響を調べることです。

「この画面に項目を一つ足すだけ」のつもりが、帳票や他のシステムへの受け渡しまで直す必要があった、ということはよくあります。

見る点改修が向いているリプレースが向いている
直したい範囲一部の機能業務の流れ全体
今の土台保守を続けられる保守の期限が近い、直せる人がいない
業務との合い方おおむね合っている業務のやり方が大きく変わった

改修の要件定義で書いておくこと

改修の要件定義は、リプレースより範囲が小さいぶん、書く項目を絞り込めます。

ただ、小さな改修ほど口頭のやり取りだけで進みやすく、後から「そんな話だったかな」となりがちです。

改修の要件定義で書いておくこと
  • 何のために直すのか、直した後どうなれば良いか
  • 直す画面、帳票、処理の範囲
  • 影響を受ける他の機能や、他のシステムへの受け渡し
  • 直さないこと、今回は見送ること
  • 直した後に、何をどう確かめれば完了とするか

例えば「契約の一覧に担当者の欄を足す」改修なら、一覧を使った帳票や、他のシステムに渡すデータにも担当者を足すのかまで書いておきましょう。

どちらで進めるかは費用とも関わるので、見積もりの読み方は要件定義の費用相場も参考にしてみてください。

新しい業務システムを入れる時の進め方は、システム導入・構築の要件定義で解説しています。

よくある相談に答えます

よく寄せられる相談
  • 既存システムの改修や保守の仕事でも、要件定義の力はつくのか
  • 元請けの要件定義書をもとに作る時、どこまで確認すればいいか
  • リプレースのスケジュールを、根拠を持って立てられるようになりたい

改修や保守の仕事でも、要件定義の力はつく?

今のシステムの改修や保守の仕事が中心で、要件定義の経験が積めるか不安、という相談があります。

結論から言うと、改修の仕事は要件定義の力をつける場としてとても向いています。

改修の依頼を受けた時に、「何のために直すのか」「どこまで影響するか」を自分で確かめて書く習慣をつけてみてください。

今のシステムの中身を知っている人は、リプレースの現行調査でも頼りにされる存在になります。

元請けの要件定義書をもとに作る時、どこまで確かめる?

元請けが作った要件定義書や設計書をもとに、開発以降を担当する立場で悩む声もあります。

受け取った要件定義書に、リプレースの場合は「今と同じ」とだけ書かれた箇所がないかを確かめてみてください。

もしあれば、今のシステムのどの機能のことか、作業を始める前に質問しておくのがおすすめです。

疑問を早めに出すことは、相手を疑うことではなく、手戻りを防ぐための確認なんです。

リプレースのスケジュールを根拠を持って立てたい

システム開発全体のスケジュールを、根拠を持って立てられるようになりたい、という相談もよく見かけます。

リプレースの場合、スケジュールの根拠になるのは、現行調査で数えた機能の数と、移すデータの量です。

『経験が浅いから、根拠なんて出せない…』と思うかもしれません。

まずは、この記事の棚卸しの表と移行の表を埋めて、「何をどれだけやるか」を数で見える形にしてみてください。それだけでも、周りと話す時の根拠になります!

よくある質問

システムリプレースの要件定義で一番大事なことは何ですか?

「今と同じ」に頼らず、今のシステムを調べ直して、機能ごとに残す・やめる・変えるを決めることです。あわせて、データ移行と切替の条件も決めます。

移行要件定義では何を決めますか?

移すデータの範囲、件数の把握、変換のルール、移さないデータの扱い、移行のテスト、切替日と段取りを決めます。うまくいかなかった時に戻す条件も決めておきます。

設計書が無い場合、現行調査はどう進めますか?

利用部門に業務の流れを聞き、実際の画面を操作しながら入力と出力を記録します。自動で動いている処理は運用の担当者に確かめ、分からないものは課題一覧に残します。

リプレースでも業務の流れから見直したほうがいいですか?

見直すのがおすすめです。今の業務の流れと目指す流れを比べてから機能を決めると、使われていない機能を作り直す無駄を減らせます。

システム改修の要件定義はリプレースと何が違いますか?

改修では直す範囲の要件と、他の機能への影響を中心に決めます。データ移行はほとんど要らない一方、つながっている帳票や受け渡しへの影響の確認が大事です。

まとめ

この記事の要点
  • リプレースの要件定義は、今のシステムを調べ直すところから始まる
  • 「今と同じ」は要件にせず、現行調査のチェックリストで抜けを防ぐ
  • 機能ごとに残す・やめる・変えるを決め、理由と判断した人を残す
  • 移行の要件定義では、範囲、件数、変換のルール、テスト、切替日、戻す条件を決める
  • 一部を直すなら改修、土台ごと合わなくなったならリプレースが向く
要件定義ガイド

要件定義ガイド 編集部

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