PoCの要件定義とは?RPA・DXで「試して決める」進め方

PoC・RPA・DXの要件定義を表す、検証計画の付箋とノートPCのアイキャッチ

当サイトの記事は編集部がIPAなど公的機関の公開資料と読者の声を調べて独自に執筆しています。

PoCやRPAの導入を任されて、『試すだけなのに、要件定義って要るの?』『何を書けばいいの?』と迷っていませんか。

結論から言うと、PoCの要件定義で一番大事なのは「何が分かれば次に進むか」という検証のゴールを先に決めることです。

この記事では、PoC・RPA・DXの要件定義で決めることを、ゴール設定表と記入例で具体的に見ていきます。

目次

PoCの要件定義とは?いつもの要件定義と違うところ

先に結論

PoCの要件定義は、作るものを細かく決めるより「何を確かめるか」「どうなれば合格か」「試す範囲はどこまでか」を決める工程です。本格導入の要件は、PoCの結果を見てから決めます。

PoC(概念実証)は、本格導入の前に小さく試して、実現できるか、効果があるかを確かめる取り組みです。

いつもの要件定義(RD:Requirements Definition)は、作るものを決めて合意する工程ですよね。

一方でPoCは、作る前の段階で「そもそも作る価値があるか」を確かめる場なんです。

だからPoCの要件定義では、機能の一覧よりも、確かめたいことと合格の基準が主役になります。

比べる点いつもの要件定義PoCの要件定義
決めるものシステムで実現すること確かめたいことと合格の基準
範囲対象の業務全体一部の業務、一部のデータ
品質の条件本番で使える水準まで決める確かめるのに足りる水準でよい
終わった後設計・開発に進む進む、やめる、試し直す、を判断する

要件定義そのものの意味は、要件定義とは?意味をわかりやすく解説で確かめられます。

RPA・DXとの関係

RPAは、パソコン上の決まった操作をソフトウェアのロボットで自動化することです。

DXは、デジタル技術で業務やビジネスのやり方そのものを変えることを指します。

RPAもDXも、いきなり全社に広げず、まずPoCで小さく試してから進めることが多いですよね。

そのため、PoC・RPA・DXの要件定義は、まとめて考えるとつながりが見えやすくなります。

試してから決めてよいこと
  • 新しい技術で本当に読み取れるか
  • 自動化で手作業がどのくらい減るか
  • 利用部門が使いこなせるか
試す前に決めておくこと
  • 何のために試すのか
  • どうなれば合格か、誰が判断するか
  • 試す期間と使ってよいデータの範囲

PoC・RPA・DXは「試して決める」部分が多い:検証のゴール設定表

ここが大事なところです

試して決める部分が多いからこそ、ゴールだけは先に決めておきます。ゴールがないPoCは、終わっても「なんとなく良さそう」で止まり、次に進む判断ができません。

『PoCなんだから、やってみてから考えればいいのでは?』と思う方も多いはずです。

半分はその通りです。ただ、何を見れば判断できるかを決めずに試すと、結果の受け取り方が人によってばらばらになってしまいます。

そこで使いたいのが、次のような検証のゴール設定表です。

決める項目中身記入例(紙の点検記録の読み取り・例)
確かめたいこと本格導入の前に分からないこと手書きの点検記録を、写真から文字として読み取れるか
合格の基準どうなれば「進む」と判断するか読み取った結果を人が直す手間が、手入力より明らかに少ない
不合格の時どうなれば「やめる」「試し直す」か直す手間が手入力と変わらなければ、別の方法を考える
試す範囲業務、部署、データ、期間一つの工場の、一つの設備の点検記録だけ
判断する人結果を見て決める人設備管理の責任者と情報システム部門
使ってよいデータ本物のデータを使うか、扱いの条件個人の情報を含まない点検記録だけを使う
PoC・RPA・DXで、試す前に決める検証のゴール設定の項目を並べた図解

「合格の基準」は、数字で言えるなら数字で決めます。

数字で言いにくい時は、上の例のように「手入力と比べて」など比べる相手を決めておくと、判断がぶれにくくなります。

ゴールが決まっていない時の会話

ゴールが決まっていないと、PoCの終わりにこんな会話になりがちです。

「一応読み取れました。精度もそこそこだと思います」と開発側が報告します。

「そこそこ、というのは、本格導入していいということですか?」と発注側が聞き返します。

この会話を防ぐのが、試す前のゴール設定なんです。

よくある失敗

PoCの目的が「試してみること」そのものになってしまう。試したことに満足して、本格導入の判断が先延ばしになります。ゴール設定表の「合格の基準」と「判断する人」の2行だけは、試す前に埋めておきましょう。

PoCの要件定義の進め方と、PoC計画の記入例

先に結論

PoCの要件定義は、目的、確かめたいこと、範囲、合格の基準、体制と期間、終わった後の進め方の順で決めます。最後の「終わった後」まで決めておくのがポイントです。

PoCの要件定義は、次の流れで進めるとまとまりやすくなります。

PoCの要件定義の流れ(例)
  1. 今の困りごとと、PoCの目的を書き出す
  2. 本格導入の前に分からないことを「確かめたいこと」に挙げる
  3. 試す範囲を、業務、部署、データ、期間で絞る
  4. 合格の基準と、判断する人を決める
  5. 試すのに必要な最低限の機能と品質の条件を決める
  6. 終わった後に、進む、やめる、試し直すの判断の場を決める

5番目の「最低限の機能と品質の条件」は、本番ほど細かく決めなくて大丈夫です。

ただ、使うデータの扱いだけは、試すだけでも本番と同じ慎重さで決めておきましょう。

PoC計画の記入例

ここでは架空の題材として、「設備の手書きの点検記録を、写真から読み取って入力する仕組みをPoCで試す場合」で書いてみます。

項目記入例(点検記録の読み取り・例)
目的点検記録の手入力の手間を減らせるかを確かめる
確かめたいこと手書きの数値と丸印を、写真から読み取れるか
範囲一つの工場、一つの設備、点検記録の写真だけ
合格の基準人が直す手間が、手入力より明らかに少ない
必要な機能写真の取り込み、読み取り結果の表示、直した結果の保存
作らないもの権限の管理、他のシステムへの連携、帳票の出力
判断する人設備管理の責任者と情報システム部門
終わった後合格なら本格導入の要件定義へ、不合格なら別の方法を検討

「作らないもの」を書いておくと、試している途中で機能がふくらむのを防げます。

『あれもついでに試したい』という声は、たいてい途中で出てきます。そんな時は「次のPoCの候補」として別にメモしておくのがおすすめです。

PoCの期間と体制は、どう決める?

PoCの期間は、確かめたいことを確かめるのに足りる長さで決めます。

例えば点検記録の読み取りなら、晴れの日と雨の日、慣れた人と慣れていない人の記録がひと通りそろう期間が要りますよね。

体制は、作る人だけでなく、試しに使って意見を出す利用部門の担当者を入れておきましょう。

役割PoCでの主な役目(例)
発注側の責任者目的と合格の基準を決め、結果を見て進むかを判断する
利用部門の担当者実際の業務で試し、使いにくい点や困った点を伝える
情報システム部門使ってよいデータと環境を用意し、扱いの条件を守る
開発側試すための最低限の仕組みを作り、結果をまとめる

利用部門が入っていないPoCは、技術的には合格でも、現場で使われるかどうかが分からないまま終わってしまいます。

PoCの後、本番の要件定義にどうつなぐ?

PoCで合格しても、そのまま本番に使えるわけではありません。

PoCでは作らなかった権限の管理や連携、非機能要件は、本格導入の要件定義で改めて決めます。

PoCから本番の要件定義へ引き継ぐもの
  • 確かめたことと、その結果
  • 試して分かった課題と、まだ確かめていないこと
  • 利用部門から出た意見と要望
  • 本番で追加が要る機能と品質の条件
  • 試す範囲の外に広げる時に気をつけること

本格導入の進め方は、システム導入・構築の要件定義でも詳しく扱っています。

RPAの要件定義と、RPAの要件定義書の書き方

先に結論

RPAの要件定義では、自動化する操作を「画面のどこを、どの順番で、どんな条件で」まで細かく書き出します。人が見ればわかる判断や例外を、言葉にしておくのがポイントです。

RPAの要件定義は、普通のシステムの要件定義よりも、操作の手順に近い細かさが必要になります。

ロボットは、人なら自然にできる「いつもと違うから確認しよう」という判断ができないからなんです。

『手順書があるから、それを渡せば大丈夫では?』と思うかもしれません。

ただ、人向けの手順書には、慣れた人の判断が書かれていないことがよくあります。要件定義でRPA化する時は、その判断を言葉にするところから始めましょう。

RPAの要件定義書の記入例

ここでは架空の題材として、「毎月、取引先ごとに請求書のファイルを作り、決まった宛先に送る作業をRPAで自動化する場合」で書いてみます。

項目記入例(請求書の送付・例)
対象の作業月初に、取引先ごとの請求書ファイルを作り、送付する
始まりの合図経理担当が、締めのデータを決まったフォルダに置いた時
使うデータ締めのデータ、取引先の宛先一覧
処理の手順取引先ごとにファイルを作り、名前を付けて保存し、宛先へ送る
例外の扱い宛先が空欄の取引先は送らず、担当者に一覧で知らせる
止まった時の扱い途中で止まったら、どこまで送ったかを記録して担当者に知らせる
結果の確かめ方送った取引先と送らなかった取引先の一覧を、担当者が確かめる
担当と保守経理部門が日々の結果を見て、情報システム部門が直す

RPAの要件定義書では、特に「例外の扱い」と「止まった時の扱い」の2行が大事です。

ここが空欄のままだと、ロボットが止まった時に、誰も気づかないまま月末を迎えることにもなりかねません。

RPAの要件定義書で、人の判断を言葉にして書き出す流れを示した図解

慣れた人の判断を聞き出す会話例

人の判断を言葉にするには、手順を聞くだけでなく「いつもと違う時」を聞くのが近道です。

「請求書を作る時、手を止めて確かめることはありますか?」と開発側が聞きます。

「宛先が変わったと連絡があった取引先は、一覧を直してから送っています」と利用部門が答えます。

この一言から、「宛先の一覧を直す作業が先に終わっていること」が、ロボットを動かす前の条件だと分かります。

聞き取りで確かめておくこと
  • 手を止めて確かめる場面はどこか
  • 毎月ではなく、たまにだけ発生する作業はあるか
  • 処理の前に、人が準備しておくことはあるか
  • うまくいかなかった時、今は誰がどう直しているか

自動化に向く作業、向かない作業

RPAの要件定義に入る前に、その作業が自動化に向いているかを見ておくと手戻りが減ります。

見る点向いている作業向いていない作業
手順毎回同じ順番で進む人によって進め方が違う
判断条件が言葉で書ける経験や勘で決めている
画面よく使う画面が当面変わらない画面がよく変わる
量繰り返しの回数が多いごくたまにしか発生しない

向いていない作業でも、手順をそろえたり判断の条件を決めたりすれば、向く作業に変えられることがあります。

その場合は、RPAより先に業務の見直しを要件として決めておきましょう。

DXと要件定義:業務の変え方から決める

ここが大事なところです

DXの要件定義は、今の業務をそのままシステムに乗せることではありません。業務のやり方をどう変えるかを先に決めて、そのためにシステムが持つべきことを決めます。

DXと要件定義の関係で迷う方も多いですよね。

DXの要件定義でつまずきやすいのは、今の手作業をそのままデジタルに置き換えて終わってしまうことです。

例えば、紙の申込書をそのまま画面に写しただけでは、記入の手間も確認の手間もほとんど変わりません。

DXでは、「そもそもこの確認は要るのか」「誰がいつ入力すれば一番手間が少ないか」から考え直すんです。

今の業務と目指す業務を比べる方法は、要件定義の業務分析(As-Is/To-Be)で詳しく解説しています。

DXの要件定義で先に決めること

DXの要件定義で先に決めること
  • 業務のどこを、どう変えれば成功か
  • 変えることで、誰の手間がどう減るか
  • やめる作業、まとめる作業はどれか
  • 利用部門が自分たちで決めて動ける体制か
  • 小さく試す範囲と、広げる順番

IPAの「ユーザのための要件定義ガイド 第2版」でも、DXの流れの中で、業務部門の利用者が主体的に要件定義に関わる必要が増している、という問題意識が書かれています。

DXの要件定義の記入例

ここでは架空の題材として、「紙の申込書で受けている会員登録を、オンラインの受付に変える場合」で考えてみます。

画面に写すだけで終わらせないために、今のやり方と変えた後のやり方を並べて書くのがコツです。

見直す点今のやり方(例)変えた後のやり方(例)
誰が入力するか窓口の担当者が申込書を見て入力する申し込む人が自分で入力する
確認の仕方担当者が記入漏れを目で見て確かめる入力の時点で、漏れがあれば先に進めない
書類の保管紙の申込書を棚で保管する紙は受け取らず、入力した内容を保存する
やめる作業なし申込書の転記と、紙の保管

『入力の画面さえ作れば、それでDXなのでは?』と思われがちですよね。

ただ、表の「やめる作業」の行が空欄のままなら、手間はほとんど減っていません。やめる作業が書けているかを、DXの要件定義の確かめどころにしてみてください。

業務を一番よく知っているのは、業務部門の担当者です。開発側に任せきりにせず、業務部門が「どう変えたいか」を言葉にしていきましょう。

補足

DXのように、試しながら中身を決めていく取り組みは、短い期間で作って確かめるを繰り返す進め方と相性がよいです。その進め方での要件の扱いはアジャイル開発の要件定義を読んでみてください。

要件定義ガイド

まずは型をそろえよう|要件定義書のテンプレートと記入例

章立て・各章に書くこと・1行の記入例をひとつの表にまとめました。白紙から書き始める前に、型を手元に置いておきましょう。

無料要件定義書のテンプレートを見る

当サイトの記事ページに移動します。

よくある相談に答えます

よく寄せられる相談
  • SE職ではないのに、運用の仕組みの開発資料を作ることになった
  • 表計算ソフトのマクロやVBAから離れたいが、何から決めればいいか
  • RPAの開発を続けているが、この先に要る経験は何か

SE職ではないのに、開発資料を作ることになった

業務部門の担当として、運用の仕組みを作る資料を任されて悩んでいる、という相談があります。

『専門の書き方を知らないから、作れる気がしない…』と感じるかもしれません。

結論から言うと、最初に書くのは専門的な設計書ではなく、「何に困っていて、どうなれば良いか」です。

この記事のゴール設定表や、RPAの要件定義書の記入例の項目を埋めるだけでも、開発側が読める資料になります。

マクロやVBAから離れたい時は、何から決める?

表計算ソフトのマクロやVBAで作った仕組みが増えすぎて、作った人しか直せない、という悩みもよく見かけます。

まず、今あるマクロを一覧にして、それぞれ「何の業務の、どの作業を助けているか」を書き出してみてください。

その上で、残すもの、やめるもの、別の仕組みに置き換えるものに分けます。

置き換える先がRPAなのか、業務システムなのかは、上の「自動化に向く作業、向かない作業」の表で考えると決めやすくなります。

RPAの開発を続けているが、この先に要る経験は?

RPAのロボット作りを続けているが、キャリアのためにどんな経験を積めばいいか、という相談もあります。

RPAの経験を生かすなら、作る作業だけでなく、要件定義に関わる経験を増やしていくのがおすすめです。

利用部門から作業の手順と例外を聞き出し、RPAの要件定義書にまとめる経験は、他のシステムの要件定義にもそのまま生きます。

要件定義の力を身につける順番は、要件定義のスキルを未経験から身につける方法でも紹介しています!

よくある質問

PoCでも要件定義は要りますか?

要ります。ただ、決めるのは機能の細かい一覧より、確かめたいこと、合格の基準、試す範囲、判断する人です。本格導入の要件は、PoCの結果を見てから決めます。

RPAの要件定義書には何を書きますか?

対象の作業、始まりの合図、使うデータ、処理の手順、例外の扱い、止まった時の扱い、結果の確かめ方、担当と保守を書きます。特に例外と止まった時の扱いが大事です。

DXの要件定義は普通の要件定義と何が違いますか?

今の業務をそのまま置き換えるのではなく、業務のやり方をどう変えるかを先に決める点が違います。業務部門が主体になって、変え方を言葉にしていきます。

RPAの要件定義は誰が書きますか?

作業の手順と判断を知っている利用部門の担当者から聞き取り、RPAを作る担当者がまとめることが多いです。書いた内容は利用部門に読んでもらい、例外の漏れがないかを確かめてもらいます。

PoCで合格したら、そのまま本番に使えますか?

多くの場合、そのままでは使えません。PoCでは作らなかった権限の管理や連携、非機能要件を、本格導入の要件定義で改めて決めます。

まとめ

この記事の要点
  • PoCの要件定義は、確かめたいこと、合格の基準、試す範囲、判断する人を先に決める
  • 試して決める部分が多いからこそ、検証のゴール設定表で終わり方を決めておく
  • RPAの要件定義では、人の判断と例外、止まった時の扱いを言葉にする
  • DXの要件定義は、業務のやり方をどう変えるかから決める
  • PoCで分かったことは、本格導入の要件定義に引き継ぐ
要件定義ガイド

要件定義ガイド 編集部

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